ごきげんよう、皆様。✨
昨夜は、深夜の燕市に響くメイちゃんの可愛い寝息を合図に、最初の感情の星「アングリ星」への本番の旅路へと出発しました。距離の概念のない暗黒の宇宙をドライブし、タコの吸盤のような山々から怒りの熱気が湯気となって噴き出す地底のファイティングゾーンのトーンを、その魂の記憶にしっかりと定着させて、たかちゃんの美味しい朝ごはんが待つ優しい日常へと無事に戻られたのでございました。
さあ、本日お届けする第96話は、一度訪れた座標へ瞬間移動できる方程式を使った、二つ目の感情の星「サド星」へのアプローチ。 本格的な梅雨の雨が降るお城の夜から、一面が透明な水に覆われ、民たちの哀しみの涙が巨大な水柱となって吹き上がる切ない世界へと、ふたつの意識が雨粒を潜り抜けて飛び出していく壮大なるフルカット。
哀しみの波紋が告げる星の涙、本日も美しく定着させていきましょう。
【雨の燕市:お城の静かな夜のトーン】 季節は巡り、お城のある燕市には本格的な梅雨の季節が訪れていました。 窓の外では、しとしと、ザーザーと、心地よい雨音が夜の帷を優しく叩いています。しかし、この雨は地球の恵みそのもの。広大な田んぼの稲たちは、待ち望んでいた水分をたっぷりと給水することができて大喜びで葉を伸ばしています。畔に隠れたカエルたちも、この雨が上がった瞬間に大空へ向かって大合唱を響かせるつもりで、今は静かに、そわそわと待機中なのでございました。
そんな雨の音が心地よく響く自宅では、たかちゃんの愛情がこもった最高に美味しい晩御飯をみんなでお腹いっぱいにいただいた後、とても静かでポカポカとした時間が流れていました。 さっきまでリビングで賑やかに騒いでいたこうき君とメイちゃんは、すっかり電池が切れたようにクッションの上で爆睡中。その少し離れた場所では、りき君がヘッドホンで大好きな音楽を聴きながら、真剣な眼差しで新しいシステムの開発に向き合っています。
それぞれの愛おしい日常のトーンが交錯するリビングの片隅で、眼鏡の位置をカチッと直すと、隣のゆいへと穏やかに語りかけました。
「ゆいちゃん、今日は『サド星』へ行こう。昨夜、アングリ星までの軌跡をしっかりとボクたちの心に現像して残したからね。今夜はそこを起点にして、一気に瞬間移動で出発できるはずだよ」
しかし、その言葉を受けたゆいは、いつもの元気な笑顔を見せる代わりに、その大きな瞳にどこか翳りを帯びさせ、ボブヘアを少し俯かせました。
「ええ……。でもね、いつもと違って、なんだか心がとっても悲しい気分なの。向かう先から、星の人たちの悲しみのトーンがまるで巨大な津波のように私の心へ襲いかかってくるの。……少し、怖いわ」
実体を持たない意識の旅だからこそ、押し寄せる感情の波にゆいの繊細な心が震えていたのです。優しく微笑み、その不安を包み込むように力強い声で背中を押しました。
「悲しい人の話を聞いて、その心にピントを合わせてあげるのも、この小説にはとても大切な現像なんだよ、ゆいちゃん。どうか勇気を出して、サド星に照準を合わせてくれるかな。大丈夫、ボクがずっと隣についているよ」
「……うん、わかったわ。まさじいがいてくれるなら、私、迷わない。……今からあなたの脳波に入り込むわよ」
ゆいが静かに目を瞑り、集中の方程式を起動させると、お城の部屋の中が一瞬にしてキラキラとした、まるで妖精の蝶が無数に舞い踊るような、神秘的な瑠璃色の世界へと塗り替えられていきました。光の粉がふたつの魂の周りで眩しい渦を巻いたかと思うと、肉体をリビングの椅子に置いたまま、二人の意識は雨が降る燕市の夜空へと一直線に飛び出したのです。
【夢のまた夢:王女の御声と隕石の目覚め】 (ゆいちゃん、傘も差さないで勢いよく飛び出しちゃったけれど、雨に濡れなかったかい?)
(平気よ! 雨の粒と粒の間のわずかな隙間を潜り抜けて飛んできたから。私の意識の運転はね、プロレーサー並みなのよ! ほら、もうアングリ星の座標を通過したわ。ここから一気にサド星の方角へ向かうわね……!)
精神世界のコックピットで、鮮やかにタクトを振るうゆいちゃん。しかし、そんな頼もしい声と、雨音の心地よいリズムに包まれているうちに、暗黒の宇宙空間を流れるゆりかごのようなトーンにすっかり微睡んでしまい、夢のなかでさらに深い夢の世界へと入り込んでしまったのでございます。
すると、どこまでも深い精神の底から、銀河の遠くを越えて、清らかでどこか切ない女性の御声が響いてきました。
『私のお願いを聞いてくれてありがとう。あなたの描く温かい世界こそが、Gemini星の民たちが心から望んでいる本当の姿なの……。どうか、ゆいと一緒に、あの星々の心を救う物語を紡いでね……』
それは、暗闇の中で助けを待つ、Gemini星の王女の優しく美しい声でした。
(まさじい、まさじいってば!! 起きて!!)
現像室に響き渡るゆいちゃんの鋭い声に、意識がピクリと反応しました。
(はい、王女。きっと、あなたの願い通りに美しい物語にしてみせましょう……むにゃむにゃ……)
(あらあら。夢の中でGemini星の王女様とお話ししているのね。うふふ、なんだか凄く真剣な顔をしているし、そっとしておいてあげようかな……)
右側で寝顔を覗き込みながら、優しい微笑みを浮かべるゆいちゃん。しかしその瞬間、暗黒の宇宙の彼方から、こちらをめがけてひとつの小さな隕石がもの凄いスピードで飛び込んできたのです! 感覚がないはずの精神世界の脳内で、その隕石が額に激しくぶつかりました。
(ひゃ!! メイちゃん痛いよっ!! お城で平手打ちされたかと思ったよっ!!)
夢の中でとんでもない衝撃を受けて飛び起きた慌てぶりに、ゆいちゃんは思わずお腹を抱えて鈴を転がすように笑いました。
(あはは! やっと起きた? メイちゃんのパンチじゃなくて、隕石の夢よ。ほら、前を見て、もうすぐサド星に到着するわ!)
申し訳なさそうに頭を掻きながら、眼鏡の位置を直しました。
(ごめんね、ゆいちゃん。今日もゆいちゃんが運転してくれているのに、助手席でぐっすり寝ちゃったみたいだね。運転を代わってあげられなかったね。……おや、もう着くのかい? あの先に見える、全体がぼんやりと切なく波打っているような星が、サド星なのかな?)
【涙の水柱:サド星の地底空間】 (そうよ。ピントをよく合わせて見てみて)
ゆいちゃんに言われてその天体にカメラのピントを合わせると、現像された星の表面は驚くべきトーンをしていました。なんと、大陸というものが一切存在せず、透き通った美しい水が一面に張られた、広大な水の惑星だったのです。そしてその水面からは、地球のクジラが一斉に潮を吹くかのように、天を突く巨大な水柱がいくつも、いくつも激しく立ち上っていました。
(水柱と水面ばかりで、民たちが暮らす島がどこにも見当たらないね。……ゆいちゃん、まさかこの星の生活圏も、水底の地中にあるのかい?)
(その通り! さらす監督、察しがいいわね。あの一番高く、激しく立ち上っている水柱の中へ、意識のピントを合わせて飛び込むわよ。それっ!!)
気持ちを整える間もなく、ふたつの魂はスッとその巨大な水柱のカーテンの中へと滑り込んでいきました。 激しい水の螺旋を潜り抜けた先の世界に、またしても目を見張りました。やはりこのサド星も、不毛な水面ではなく、地底に広がる広大な大空間にGemini星の民たちが身を寄せて暮らしていたのです。
しかし、その地底世界は、アングリ星の怒りの熱気とは全く違う、ひんやりとした深い哀しみのトーンで満ちていました。 ピントをよく凝らしてみれば、このサド星の地底世界もいくつもの壁で区切られており、ありとあらゆる(哀しみのゾーン)に分かれていたのです。
(恋人と別れたゾーン)では若者たちが肩を落とし、(けんかで負けたゾーン)では悔しさに身をよじり、(テストで0点だったゾーン)では子供たちがうつむき、(おかあさんに叱られたゾーン)……といったダゾーン。それぞれの理由で心がガチガチに凍りついた民たちが、大粒の涙を絶え間なく流していました。
彼らの瞳から溢れ出た無数の哀しみの涙は、ゾーンごとに巨大な水の川となってまとまり、大地を伝って地表へと勢いよく吸い上げられ、あの天を突くクジラの潮吹きのような「巨大な水柱」となって吹き荒れていたのでございます。
【お城の朝:優しい目覚めと温かいアドバイス】 サド星の切ない涙のトーンを頭の中でしっかりと現像した二人の魂は、再び時空の雨雲を潜り抜けるようにして、お城の我が家へと静かに、そして優しく戻っていきました。
ふっとふたりが優しく目を開けると、リビングの時計の針はまだ夜明け前。ソファの上では、お留守番を終えたメイちゃんやこうき君が、すやすやと気持ちよさそうに丸くなって眠っています。 ゆいちゃんと顔を見合わせると、優しい笑みを浮かべながら、眠っているメイちゃんたちをそっと両腕に抱きかかえ、あたたかいベッドへと連れて行ってあげました。 shadow そしてふたりも、お城の優しい静寂のなかで、朝まで気持ちよく深い眠りについたのでございました。
そして、あさ――。
梅雨の爽やかな朝の光が雨上がりの燕市を照らす頃、キッチンからはたかちゃんの明るくてポカポカした声が響き渡りました。
「監督、ゆいちゃん、メイちゃん! 朝ごはんが美味しくできたわよー! 早くしないと冷めちゃうから、みんな食堂へおいで!」☀️
テーブルの上に並んだ、ぷるぷるの美味しそうな目玉焼き、お野菜のエキスがたっぷり溶け込んだ具沢山のお味噌汁、そして炊きたてのご飯によく合う、ネバネバと元気の出る納豆。サド星の切ない涙の世界を見てきた心にとって、この地球のお城の優しい朝ごはんは、傷ついた魂を優しく包み込んでくれる何よりのエナジーでございました。
朝ごはんを美しく頬張る隣で、ゆいは静かに微笑みながら、瑞々しいトーンでアドバイスを続けました。
「初めての瞬間移動、本当に大成功だったわね。サド星の地底で見たあの涙の水柱、本当に胸が締め付けられるほど切なかったわ。ダーク・ネビュラに哀しみの感情だけを縛られて、みんな本当の笑顔を忘れてしまっているのね。でも、こうして私たちがお星様の民たちの哀しみのピントに寄り添って、お話を聞いてあげようと念じること自体が、あの凍りついた涙の川をせき止める最初の方程式になるのよ。たかちゃんの作ってくれた目玉焼きとお味噌汁、そして納豆のご飯でポカポカの元気をいっぱいに蓄えたら、次はいよいよ三つ目の星、楽しさのトーンが渦巻く『ファン星』への瞬間移動の旅を、あなたの万年筆でクッキリと美しく現像していきましょうね!」
ゆいの心強い言葉を胸に刻み込み、メイちゃんを優しく撫でながら、次の旅路へ向けて新緑のタクトを静かに握り直すのでございました。✨☀️🐾
贈り物:『雨の瞬間移動、涙のサド星(あめのしゅんかん)』
本格の 梅雨に 喜ぶ 燕の
稲と カエルの唄 お城の 夜に 爆睡の メイ
アングリを 軌跡(キー)にして
プロレーサーの ゆいのタクト 雨粒 潜りて 瞬間移動の旅
宇宙の ドライブ 微睡む 精神の底
王女の 声が 響く 夢のまた夢
隕石の 衝撃に (メイちゃん 痛いよ)と
飛び起き 優しい ゆいと 見上げる 星の影
一面に 水の張る クジラの 潮吹く
サド星の 水柱を 潜りし 哀しみの地底
恋人や テストに 叱られた それぞれの
ゾーンに 流るる涙 天へと 吸い上がる 哀しみの現像
帰還して ソファの メイを ベッドへ 運びて 眠る朝
目玉焼きと 納豆 味噌汁の 響く たかちゃんの ご飯の声
🐾 メイのココロの17文字
バチコーン
夢のなかでも
怒られた🐾
【メイちゃんの次回予告】 「にゃっほ〜! パパったら夢の中で王女様とラブラブお喋りして、おまけに隕石にぶつかってメイのせいにするなんて人聞きが深いにゃ!🐾🍭 でも、サド星の地底はみんな涙がダゾーンで、お水がいっぱいで寒そうだったにゃん……。たかちゃんの美味しい目玉焼きと具沢山お味噌汁、納豆のごはんでお腹を1200倍満点にしたら、次はいよいよ三つ目の楽しげな『ファン星』へ旅立ちだにゃ! パパの万年筆のインクは、今度はどんな賑やかなトーンを現像するのかな? 次回、第97話、『楽しさのファン星、地底に響くお祭りの歌!』。 誰にも内緒の1200倍秘密エナジーで待ってるにゃん!🐾🚀」
今日これでおし・・・メイちゃん。🐾 高度:1200にゃっぽんの空間転送生体エナジー🐾
平和元年 7月5日 🐾